非圧縮性粘性流れは、食い違い格子を用いるMac法から派生してきた数値解法で非圧縮性ナビエ・ストークス方程式ならびにそれらより導出された圧力のポアソン方程式を解いて解析するのが一般的である。これとは別に、擬似密度の時間微分を質量保存則に付加して非圧縮性粘性流れを解くいわゆる擬似圧縮性法も提案されている。いずれにも共通していることは、密度の時間・空間変化が無視できる流れを解析するための手法であるという点である。ところが、自然対流をともなう熱対流問題においては、極めて遅い流れにもかかわらず、温度変化に伴う密度変化が生じる。このような流れは、上記いずれの手法においても正確な解析が困難である。まず、前者においては、そもそも密度変化のある流れを解析することはその仮定から無理があり、後者においては対流速度に比べて音速が極めて大きくなってしまうことにより生じる、いわゆるStiffな状態に陥ってしまう。後者におけるStiff問題を解決するために、TurkelやMerkleらのグループは、擬似音速を導入した前処理法(Preconditioning method)を提案した。これは、特に極めて遅い流れ(一様流マッハ数0.01以下)の計算の際に音速を速度と同じオーダーに強制的に変換する方法である。特性の理論から解釈すれば、音波の伝播を示す特性速度をすべて対流速度に置き換えていることになる。このとき同時に、基礎方程式は非圧縮性流れ特有の方程式系に変換される。我々はこれまでに開発してきた高解像差分スキームに基づく圧縮性流れの計算コードに前処理法を適用して熱対流凝縮問題を数値解析することを目的に、新たに一般曲線座標系で記述した前処理型流束分離式(1)を導出した。同式は、我々がこれまでに導出した圧縮性流れの流束分離式とほとんど同一の式で記述されていることから、既存の計算コードに大幅な修正を施すことなく、新たに前処理型計算コードが開発できる。具体的には、Roeの近似リーマン解法ならびにLU-SGS法の流束差もしくは流束の計算に同式を適用した前処理型Roeスキームならびに前処理型LU-SGSスキーム(2)を提案した。
計算結果 1,2,3,4,5,6,7 ,8
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