マルチフィジックスCFD

 CFD技術は産業界におけるものづくりにすでに大いに貢献しており,特に高性能・高効率な流体機械や自動車,航空機の開発にCFDは不可欠なものになっている。しかしながら,ターボ機械だけでも未だよく解明されていない複雑物理現象を伴う熱流動が知られている。たとえば,ガスタービンでは微小固体粒子の翼への付着や衝突による摩耗,ロケットエンジンや水車ではキャビテーションによる腐食,風車の着氷,蒸気タービンの液滴による壊食など,ターボ機械の信頼性にかかわる負の現象があげられる。これらは場合によっては翼自体を破壊してしまい重大な事故につながる可能性のある問題である。これら現象は熱流動と強い因果関係にあることは明らかである。そこで、ナビエ・ストークス方程式で支配される流動を逸脱した複雑物理を伴う熱流動を数値計算する「マルチフィジックスCFD」がその解明に威力を発揮する。数値タービンは,これらの現象を解明するためには,まずはタービンをまるごと数値計算しなければならないという発想に立って開発している。
  物質はそもそも空気と水だけではなく,元素記号表に記載された数だけ存在する。それらのほとんどは,場の温度と圧力によって,気体,液体,固体の相へ変化し,また密度,粘度,熱伝導度,融点,沸点なども異なる.流体は常に気体もしくは液体の状態であれば,物質が違っても熱物性にさほど差異がないため,これまでは物質の違いはあまり意識されてこなかった.しかしながら,物質の相変化や物質間の相互作用を含む熱流動では物質の熱物性自体が変化するため,熱物性を正確に評価しなければならない.さらに物質は,場の温度と圧力をさらに上げていくと超臨界流体になる.特に,超臨界流体と気体もしくは液体にまたがる臨界領域では特異な熱物性を呈する.マルチフィジックスCFDを展開する上で,これら熱物性の評価も極めて重要である。
  超臨界流体はこれまで化学工学や材料科学の分野でこれらの特異性を利用して有害物質・廃棄物の分解や材料合成の技術に応用する実験的研究が進められてきた.そして最近では,超臨界二酸化炭素を使った発電技術開発が欧米や日本でも急速に進められている。その中では,コンプレッサーやタービンの作動流体に超臨界二酸化炭素が用いられる。超臨界流体シミュレータ(SFS)は,自然対流などの超低速から超音速までの広範囲の流動が計算できる前処理法に基づく数値解法に,九州大学が開発したPROPATHと呼ばれる熱物性データベースを完全に結合した数値解法に基づくマルチフィジックスCFDソフトウェアである。PROPATHには48種類の物質に関する密度,粘度,熱伝導度,比熱などほぼすべての熱物性が定義されている。そのおかげで,SFSは水や二酸化炭素のみならず,様々な物質の気体,液体,超臨界状態にある熱流動を正確にかつ容易に計算することができる。特に臨界点近傍における特異な熱物性も定義されており,臨界点をまたぐ超臨界流体の熱流動の計算に威力を発揮する。山本・古澤研究室では「数値タービン」ならびに「超臨界流体シミュレータ(SFS)」の二種類のマルチフィジックスCFDソフトウェアを研究開発している。

マルチフィジックスCFD紹介PP(動画付、10Mbyte)

Lecture Note: Introduction to Multiphysics CFD (pdf file on ResearchGate in English)